【山陰酒めぐり 諏訪泉②】熱燗マジック!毎日の食事をごちそうに変える酒
社長さんに、お話を伺った。
「酒飲みにもっと酒を売りたいですね。飲めない人に、飲みやすいですよと飲ませるよりは」
というスタンスなのだそう。なるほど!確かに、「飲みやすいですよ」っていうと、ノンアルのドリンクの方が圧倒的に飲みやすい事になってしまう…
「食中酒がどれだけ旨いか!知って欲しい!!!」
諏訪泉さんは、山陰の食中酒の素晴らしさをもっと広めたい!という情熱に溢れた酒蔵さんだった。
うちの店主も食中酒の燗好きなので、もう「青春・燗酒語り場」みたいな勢いになり、酒屋の井上さんと共に、食中酒愛が飛び交う濃厚な時間が流れた。
一般の方の日本酒のイメージは、戦後の質の悪いプンとした甘ったるい日本酒か、「淡麗辛口」のスッキリ吟醸酒か、まるでジュースを思わせるような無濾過生原酒か、という感じではないだろうか?
「日本酒の新しい側面がフューチャーされていることは悪いことでは絶対にないが、山陰のお酒のような食中酒が埋もれてしまうのが、口惜しくてならない…!」そんな熱意が溢れる語り場。
私はこの時、日本酒の素人で、わりと冷酒好き(今も)だったので、その熱に圧倒されていた。一応本なども読んではみたものの、食中酒について、分かったような分からないようなレベルだったのだ。
しかし、この見学後、燗の食中酒と料理を合わせた抜群のマリアージュというものを体験した時、「お燗好きの人がハマるのはこれか」と納得する事になる。
私はそれまでマリアージュは、「料理と合う」「料理を邪魔しない」程度のことだと思っていた。
しかし、その燗酒のマリアージュは、料理の美味しさが5だとすると、料理を追うように酒を口に含んでから、徐々に6、7、8、と増幅し、うねる波のように全身を覆い尽くして10、20と、もはや数えられなくなるほどの、しびれるような官能的な体験だった。
目を開けられないくらい美味の余韻が長く続き、「どう?」と話しかけられても言葉が出なかった。
味覚において、あれほどの経験をしたのは初めてで、いくら美味しい料理を食べても、あのような身体の内から揺さぶられる感覚は他にない。
料理と合う、なんていうものではない。
あれは料理の美味しさを無限に増幅させる怪物だ。
私の少ない経験ではあるが、日本酒の美味しさの要素には、私がこれまで経験してきた「味覚」とは違うチャンネルがあるのではないか?
アルコールという、香りを封じ込める魔法の液体に、温度という要素を掛け合わせているのだ。
お燗酒は、温泉に入った時のように、味わいが染み渡る時間軸が長い。その分体感に余韻がある。(詳しくは天穏の蔵見学の回で書いてみたいと思います)
世界に温めた酒を楽しむ文化はそれほどないし、独自の可能性を秘めている。この温かいお酒は、毎日の食卓に魔法をかけて、質素な食事をご馳走に変えてしまえるのだ。
社長も、酒屋の井上さんも、うちの店主も、この感覚と可能性を知っていて、「これを知らないなんてもったいない」と強く思っているのだろうと思う。
やはり日本酒は沼だ。扉を開くと無限の世界が広がっている。そしてそれは、日々の何気ない暮らしを一変させるほどのパワーを持っているようだ。
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